気になるあの子

サークル「添音亭」さんの同人音声作品(全年齢向け)。

今回紹介する作品は、小さい頃はよく遊んでたけど近頃すっかり疎遠になった幼馴染が
一緒の部屋で勉強したり耳かきをしながら再び心を通わせます。

サークルさん最大の特徴とも言える効果音だけですべてを表現する静かな作りや
少ないながらも心を打つセリフの数々が心をたっぷり癒します。
久しぶりに先輩の部屋で
後輩と一緒に勉強したり耳かきをしてもらうお話。

「あっ! 先輩 よかった 今LINEしようかと思ってたんです」
後輩は明るくて可愛い声の女の子。
試験を間近に控えたある日、先輩を呼び止めると
彼の家で一緒に勉強させて欲しいとお願いします。

2人は小学生くらいの頃からの幼馴染で
その頃は実の兄妹のようによく遊んでいました。
しかし先輩が中学に上がったのをきっかけに出会う機会が一気に減り
最近は同じ高校に通ってるのにほとんど会話をしない関係になっています。
成長するにつれて性の違いを意識するようになったのかもしれません。

「先輩って普段どれくらい勉強するんですか? 課題やるだけ?」
そこで彼女が昔の関係を取り戻そうと彼に声をかけ
試験勉強を名目に彼の家でお話したり耳のお世話をしてあげます。
恋人や友達のような親しい間柄ではないため、彼女は基本的には丁寧語を使い
彼に自分の気持ちを悟られないようやや遠回りをしながら様々なやり取りをします。

男女が過ごすごくごく普通の日常なのですが
2人が数年ぶりに同じ時間を過ごすことになった背景や
時折見せる彼女のとても嬉しそうな様子が心を潤します。
年齢相応のピュアで献身的な女の子ですね。

そして2人が部屋で過ごす様子を多種多様な効果音を使ってリアルに表現しています。
耳かき棒や勉強の際に鳴るペンの音はもちろん、物を置いたり体を動かす時の小さな物音
鳥の鳴き声、車やバイクの通る音、付近の子供の話し声など
一般的な癒し系音声作品以上に音を重ねて臨場感を出しています。

しかも勉強や耳かきの最中は後輩のセリフが一気に減ります。
音だけが流れ続ける空間に多くの人が心落ち着くものを感じるでしょう。
効果音をただループさせるのではなく、状況に応じて変化させているおかげで
実際にその場にいるかのような自然さがあります。

彼女のキャラと効果音、この2つの要素が本作品の癒しの大きな源です。
音をメインに据えつつキャラも立たせているサービス
先輩の部屋に移って最初に行うのは試験勉強。
後輩が数学の問題を解きながら先輩にあれこれ質問する様子が描かれています。

ノートに書き込む際に鳴る「コツ コツ」というリズミカルなペンの音が耳に心地よく
他の環境音もそれを邪魔しないレベルで適度に鳴ります。
ページをめくったり消しゴムで消す音が入るのもリアルでいいですね。
勉強ですから彼女も用がない限りは黙々と手を動かしています。

「でも 先輩と一緒に勉強するなら 楽しい気がするな…」
数分ごとに彼女が投げかけるセリフも大きなポイント。
この時点では2人は他人同士に近く、彼女も彼にかなり遠慮している様子が伺えます。
そこを改善しようと自分の気持ちをほんのり伝えたり
勉強に付き合ってくれたお礼に耳かきの約束を取り付ける積極的なアプローチを見せます。

このなんとかして彼に振り向いてもらおうと頑張る彼女の健気な姿が胸を打ちます。
登場するセリフが少ないからこそ、ひとつひとつの言葉を選んでいるようにも思えます。
音重視なんだけど2人の心情や心の距離の近づき具合もしっかり描かれています。

「ほんと? じゃあ勉強が終わったら(耳かき)してあげますね」
個人的には彼女が丁寧語の中にちょっぴり友達らしい言葉使いもしているところが印象的でした。
年上、しかも仲が冷え切っている状況だから馴れ馴れしく話すのはあまりよくない。
でも相手に親しくしたい、そう思われたいという仄かな想いが言葉に表れています。

次の「うたた寝」パートは勉強で疲れた彼女が昼寝をするシーン。
彼女の寝息と周りの環境音だけが流れ続ける前パート以上に音特化な作りですが
寝ぼけた彼女が踏み込んだことを言うドキッとする場面も登場します。
重要パートなので詳しい内容は伏せさせてください。

そして最後は勉強が終わった後、少し空いた時間を利用し彼女が耳かきをします。
膝枕の体勢で左→右の順に耳かき棒を使ってお掃除し、最後に1回ずつ息を吹きかける家庭的なものです。

耳かき棒は「そりそり ずずっ」と面積広めのざらついた音が使われており
ゆっくりペースで前後に擦ったり掻き出したりを繰り返します。
そして奥に入るとパチパチとした綿棒っぽい音へと変化します。
力加減がかなり抑えられているため耳への刺激は弱めですが
寝ながら聴いても邪魔にならない優しさがあります。

ちなみに使用器具は作中で明確な表現がされていません。
彼女のセリフや動きから耳かき棒だろうと判断しました。
耳かき棒にしては音が幅広いし粗すぎるように思えます。
まとめると、動きはいいのだけど音の質感がややリアルさに欠ける耳かきです。

「やっぱり 先輩が先に中学に上がって 学校で会わなくなった一年間が大きいんだろうなぁ」
最中の後輩は微かな吐息を漏らして耳かきに集中するシーンが多いです。
そして時折これからのことや昔のことをぽつりぽつりと語ります。
昔のような楽しいひと時は送れなくても好きな人とできるだけ長く近くにいたい。
はっきりとは言いませんがそんな気持ちが言葉の端々から滲み出ています。

このように、リアルな音をふんだんに使った心温まるサービスが繰り広げられています。
心を綺麗にしてくれる作品
サークルさんの過去作にあった強い音フェチ要素を維持しつつ
後輩の魅力もしっかりと表現されている総合的な癒し系作品です。

開幕の後輩が駆け寄ってくる足音から始まり、荷物を置く音、飴の袋を開ける音など
ありとあらゆる動作に効果音を用意し、それを組み合わせて現実世界さながらの空間を作り上げています。
そして後輩のセリフを意識して減らし、効果音だけを聴ける時間を長く用意しています。
音声作品は声優さんがしゃべってこそ成り立つ印象が強いからこそ
こういう極端なまでに音に寄せた作りはむしろ新鮮味を感じます。

またすべてを音だけで表現できるおかげで
後輩のセリフに説明的なものがほとんどなく自然な会話が成立しています。
これも作品の臨場感を高めるのに大いに役立っています。

「あの 迷惑じゃなかったら また一緒に勉強してもらってもいいですか?」
そしてここまで音に傾倒しているのにも関わらず
後輩に十分以上の存在感があり、音とは違う癒しも与えてくれるのが素晴らしいです。
彼女は彼のことを異性として相当に好きなのでしょう。
勉強や耳かきをしている最中、次回以降も会えるように約束を取り付けようとします。

この控えめであり積極的でもある彼女の態度がとても愛らしいです。
とにかくまずは失った時を取り戻したい、そして自分の良さを改めて知ってもらいたい。
「こんな女性が近くにいたらすぐさま告白するのになぁ」と思わせる健気さに溢れています。

その一方で最後まで彼女の気持ちに気づかなかった彼にやきもきする人もいるでしょう。
彼女がここまで頑張ってるのだから彼も多少は男気を見せて欲しかったです。
ここだけがどうしても気になりました。

一途な女性の溢れんばかりの愛が感じられる良作です。
総時間80分に対し500円とコスパも抜群。
以上踏まえて条件付きではありますがサークルさん初の満点とさせていただきました。

CV:浅見ゆいさん
総時間 1:22:15

オススメ度
■■■■■■■■■■ 10点


体験版はこちらにあります

追記
作品自体の点数は9点。
コスパがいいので+1してあります。