雨と還る

サークル「添音亭」さんの同人音声作品(全年齢向け)。

今回紹介する作品は、とある事情で突然の離別を余儀なくされた彼女が
雨の降る日に主人公と再会し幸せなひと時を送ります。

サークルさんの最大の武器とも言える音のリアルさに加えて
癒しのサービスを行いながら過去の思い出や現在の心情を語るといった
ボイスドラマ的な要素も色濃く持っているのが特徴です。
彼女の言葉や仕草の中に見え隠れする物悲しさが心の汚れを洗い流してくれるでしょう。
大切な人と送るこの世で最後の一日
元恋人の詩織に耳かきや添い寝をしてもらうお話。

「久しぶり あの… 信じてもらえるかわからないけど 帰ってきちゃった」
詩織は明るくて穏やかな声の女性。
とある雨の日、一年前に事故で亡くなった彼女が主人公の目の前に現れ
事情を説明するところから物語は始まります。

彼女はこの世の未練を断ち切るために一日だけ特別に現世に行くことを許され
家族でも友人でもなく恋人と過ごすことを自ら選び、彼の前に現れました。
つまり幽霊に近い存在なのですが物理的な接触は可能らしく
この後彼の家で一緒にお茶を飲んだり耳かきをしたりして過ごします。

一般的な癒し系作品で行うサービスに彼女の境遇や時間制限といった別の要素が加わり
それが二人が過ごすこのひと時をとても濃厚なものへと作り変えています。

この世で送る最後の一日に何を思い、どうやって過ごすのか。
セリフだけでなく行為や仕草によっても彼女はその胸の内を語ってくれています。

「病気とかしてなくてよかった だってそりゃ 元気に笑ってて欲しいからさ」
こんな風に書くとえらく寂しい雰囲気の作品に思えるかもしれません。
ですが実際は世間一般的な恋人たちが過ごす様子とそれほど変わらず
彼女は最近の仕事の調子や体調など他愛も無い話から切り出します。

耳かきや添い寝は割と普通に近い感じにやって最後に泣かせてくれる作品ですので
サークルさんの過去作と同様にリアルな音を楽しみたい、安眠目的に寝ながら聴きたい人も問題なく楽しめます。
今作は雨の日らしく全編を通じて落ち着いた雨音がバックで鳴り続け
一部のシーンでは雨足をちょっぴり変化させるきめ細かな演出もされています。
愛に溢れた癒しのサービス
主人公の家で一息ついた後に行う耳かきは20分30秒ほど。
膝枕の体勢で右耳→左耳の順に耳かき棒のみを使って丁寧に汚れを取り
最後に一回ずつ長めに息を吹きかける家庭的なものです。

耳かき棒は「しょり ぽり」と乾いた柔らかい音が使われており
前半から中盤にかけては穴の下から上へと掻き出すように
終盤は奥を掃除しているのか、それ以前よりも少し近い位置でゆっくりと動きます。

耳かき音の刺激・ボリューム・動かし方のすべてがソフトなものに統一されており
耳をくすぐられる感覚が若干弱くなってる半面、耳に優しく聴きやすさを感じます。
最中微かに聞こえてくる彼女の吐息や遠くで聞こえる雨音も落ち着いた雰囲気を与えています。
しっとりとした耳かきと表現するのが妥当でしょう。

「いつも頑張ってるから 頑張りすぎてないか ちょっと心配」
「何回死んで 何回生まれ変わっても また好きになりたいし 好きになって欲しいよ」

そして耳かきをしながら詩織は一年間の隙間を埋めようと様々な話題を振ります。
その多くが彼の体や行く末を気遣うものなのですが
初デートの思い出を語りながらこの世に未練があることを告げるなど
大事な人を想う気持ちと己の願望の間で葛藤する様子が窺えます。

聴いた限りでは二人のやり取りを重視している耳かきに思えます。
彼女が語り始めるタイミング、話題の内容、その際の気持ちやその移り変わりが
短いながらも美しいセリフの数々によって事細かに描かれています。

彼女が残り少ない時間を大切に思い、悔いの残らないよう過ごそうとしているのが強く伝わってきます。

続くおやすみパートは添い寝がメイン。
詩織が同じベッドの左側に陣取って寝息を立てたり時折語りかけてきたりします。
サークルさんの他作品と同じくセリフを極端に絞った安眠重視の作りです。

「いつまでも 私のこと 想ってなくていいよ」
彼女は夜が明けると雨が止む、つまりこの世から去らなければならないことを知っており
彼が幸せに暮らせるよう自分のことを忘れ他の女性を愛するよう持ちかけます。
本人にとっては身を切るような思いだったに違いありません。
それを敢えて行うところに彼女の愛の強さが現れています。

時間に対する会話量が少ないからこそ、そのひとつひとつの言葉や表現が選び抜かれており
彼女が彼に対して伝えたかった想いがストレートに、そして濃密に込められています。
ホッとする、安心する要素に加えてホロリと泣ける要素もある。
サークルさんの長所を活かした癒し系音声としてのひとつの終着点がそこにはあります。
心洗われる作品
詩織の献身的な態度が癒しを、寂しさを含んだセリフが涙を与えてくれる作品です。

現世での自分に後悔を残さないように、そして残された最愛の人がこの先幸せに生きていけるように
彼女は癒しのサービスをしながら彼に対して気遣い、勇気付け、感謝するセリフを投げかけます。
これらのセリフ自体は他の癒し系作品でもそれなりに見かけるものなのですが
彼女が既に死んでおり、彼と元の関係に戻る可能性も断たれている背景があるおかげで
どのセリフもとても重く価値のあるものに感じられます。

そして静かな雨音や控えめな耳かき音といった諸々の音も彼女の心情を語っています。
ストーリー・キャラやセリフ・声や音のバランスが高いレベルで取れているからこそ
聴いていて落ち着く、泣けるといった感情が湧き上がってくるのです。
どれかひとつでも欠けていたらここまで心に響くことはなかったでしょう。

「私のこと 好きになってくれて ありがとう たくさん たくさん愛してくれて ありがとう」
一番最後の「雨と還る」パートではすっかり寝入った主人公に
彼女がお別れの挨拶をしながら自分の本音を漏らします。
100%ハッピーエンドとはさすがに思いません。
でも過ごした日々を振り返ってみて、それが幸せと感じられたのならいいのではないでしょうか。
悲しさをはらんでいながら最後はスッキリさせてくれるところも見事です。

一般的な癒し系作品とは違った方向から心を温めてくれる作品です。
人の優しさに触れたい人、泣ける作品を求めている人に特にお薦めします。

CV:浅見ゆいさん
総時間 1:29:14

オススメ度
■■■■■■■■■□ 9点


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