泉の女神の耳かき

サークル「藤和工場」さんの無料の同人音声作品(全年齢向け)。

今回紹介する作品は、とある森の奥にある泉に住む女神が
迷い込んできた主人公を会話と耳かきでもてなします。

全編で流れ続けるクリアでリアルな水の音、気だるそうな彼女との様々なやり取りなど
正統派の耳かき音声に比べてキャラやストーリーといった背景部分に力が入れられており
短時間ながらも現実逃避した気分を抱きながら心をリフレッシュすることができます。
行き場を失った男と気だるい女神
泉の女神に耳かきをしてもらうお話。

「はい あなたが落としたのは この金の耳かきかしら? 銀の耳かきかしら?」
泉の女神は気だるそうに話す落ち着いた声のお姉さん。
森で迷って泉にやってきた主人公にからかう形で挨拶をすると
元の世界へと戻るまでの間、耳かきをしてあげます。

彼女は森から通じる別世界にあるこの泉を長い間一人で管理しており
ごくたまに迷い込んでくる人間たちの願いを聞き届けてから送り返しているそうです。
そんなわけで基本的には女神らしい善人キャラなのですが
退屈な責務を負わされ続けていることもあり、主人公に対する態度がかなり素っ気無いものになっています。
ツンデレとも違う、癒し系作品では滅多に見かけないタイプのキャラです。

「どう? 喉の渇きが消えたでしょ?」
また舞台が泉ということもあり、音声の全編に渡って様々な水の音が登場します。
開幕からバックで流れ続けるさらさらと流れる音、合間に入る泡が弾ける音、湖に入った際の水面が揺れる音など
どれもクオリティが極めて高く、スッキリとした清涼感があります。
女神のキャラも合わせて雰囲気作りがしっかりしている作品と言えるでしょう。

メインのサービスにあたる耳かきはおよそ9分間。
湖の上に横になり、右耳→左耳の順に耳かき棒でお掃除してから
仕上げに1~2分に渡って断続的に息を吹きかけます。

ここでのポイントは先ほど登場した2種類の耳かき棒を使い分けていること。

「じゃあそうね せっかく出したんだし あなたの耳で 金と銀の耳かき棒 使い比べってことにしましょうか」
右耳を担当する金の耳かきは「かりかり さすさす」と乾いた軽い音
左耳で登場する銀の耳かきは金に比べて面積が広く摩擦感も少し強い音、といったように
明らかな違いがある効果音をシーンに応じて別々に鳴らしています。

音の質感も作品の雰囲気を壊さないよう柔らかいもので統一されていますし
耳かきのクオリティもかなり高いものを持っていると言えます。
仕上げの息吹きシーンで耳がこそばゆく感じる人もいるでしょうね。

「なかなか… 女神の手をもってしても 奥深い行為ね うんしょ」
「ほら 喜んでるじゃない」

個人的に印象に残ったのは最中に交わされる女神とのやり取り。
主人公を癒すためではなく自分の好奇心を満たすために始めた耳かきなのに
汚れを取ろうと一生懸命になったり、息を吹きかけるたびに反応する彼に笑いかけたりと
冒頭の気だるい態度とは少し違った優しい顔を見せ始めます。

左耳のシーンでは過去に泉を訪れた2人の女の子のことをしんみり語るなど
彼女が耳かきを通じて失っていた感情を取り戻しつつあるように思えました。
耳かきという行為はされる側が癒されるのは間違いありませんが
行っている側も多少は温もりや安心感を得ているのではないでしょうか。
そういった相手の感情の変化を描いているところも本作品の大きな魅力です。
世界観がしっかりしている作品
耳かきというサービスだけでなく、作品全体が持っている様々な要素にも癒しを感じる作品です。

永遠とも言える時の中で泉を守り続けてきた結果、様々なことに無関心になってしまった女神が
主人公を含めたここ最近の人間たちとの出会いを通じて
失いかけていた愛を取り戻す物語を耳かきと絡めながら繊細に描いています。
タイトルから「彼女が何から何まで甘やかしてくれるのだろう」と予想していただけに
こういう俗な性格を持った女神を登場させ、活躍させている展開がとても新鮮でした。

「あなたにこうした時 その安らかな顔を また見たいと思ってしまったから」
物語の結末についてもちょっぴり変わった形で締めくくられています。
神様として人間たちに様々なものを与えることができる彼女が
逆に人間たちに教えられ、自分には無いものを求めようとする。
耳かき音声にはあまり見られないしっかりとしたストーリーがあり
それが作品に対する没入感を高めています。

耳かきそのものについても音質にこだわる一方で
女神の経験の浅さを踏まえて動きは若干拙くしているのがいいですね。
といってもミスをして耳を傷めるシーンとかはありませんから
他の作品と同じく安心して聴けるし癒しも得られます。

また作中に登場する主人公以外の人間キャラには元ネタがあります。
サークルさんの過去作を聴いている人ならニヤリとするでしょうね。

無料とは思えないほど練りこまれている癒し系作品です。
野上さんはわけあって今年は活動を自粛されていますし
彼女の温かい声を聴きたい人にも強くお薦めします。

CV:野上菜月さん
総時間 17:14

藤和工場
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