サークル「オミ・オクル」さんの同人音声作品(全年齢向け)。
今回紹介するサークルさんの処女作は、それぞれに異なる事情を持つ女性たちが
間もなく死のうとしてる相手を自分なりのやり方で見送ります。
自分の最期を看取られる様子だけを描いてるのが大きな特徴で
ある人は純粋に悲しむ、またある人は誓いを立てたうえで戦いに赴くなど
主人公の死を受け入れたうえで苦しみや悲しみが和らぐよう真剣に働きかけてくれます。
人生の最期に最高のご褒美を
「あらあら これは…助からないかな」
ミオは甘くておおらかな声の女性。
事故に遭い生死の境をさまよってる主人公に話しかけると
もう助からないと判断し、新しい世界へ案内します。
本作品は自分が看取られる気分を疑似体験してもらうことを目的に
彼女たちが50分程度に渡って色んなことを話します。
正体不明の女性、我が子同然の弟子、苦難を乗り越えてきた戦友、そしてロリ吸血鬼と
パートごとに異なるキャラが登場し、それぞれの背景に合ったやり方で彼らの最期を見届けます。
お話が完全に独立してますからどのパートから聴いても大丈夫です。
主人公の死が確定してる時点で湿っぽい作品だと思う人もいるでしょうが
4パートあるうちで泣き出すキャラは1人と少なく
それ以外は彼の死を受け入れたうえで悲しみを和らげたり自分の気持ちを素直に伝えます。
残り僅かな人生に悔いを残させないよう思いやるのが本作品の基本スタイルです。
癒し要素が結構充実してますから、他人の愛に飢えてる人が聴くと良い刺激になるでしょう。
状況が状況なのでどのキャラもふざけたりせず真っ直ぐ向き合います。
耳かきやマッサージを一切せず話術で癒やす作りも独特で面白いです。
変化に富んだ看取り
致命傷を負って意識がなくなりつつある主人公の心に直接語りかけ
今の状況や自分のことを教えてから色んな手段で甘やかします。
「私の声が聞こえるってことは 残念だけど 君はもう助からないんだ」
「私の手が触れると 痛さも怖さも 何もかもうすーくなっていって どんどんゆったりとした気分になっていくね」
間もなく死を迎えることをはっきり伝えたうえで
全身をパーツごとに触れて痛みと苦しみを取り除き
さらに頭を撫でる、深呼吸する、ぎゅっと手を握るなど
一般的な癒し系作品でもよくやることを順に行い彼の心と体を安らげます。
もうすぐ死ぬことが確定した場合、やはり恐怖や不安が湧いてくるでしょうから
それを和らげることに最も力を入れながら進めます。
そして死んだ後に何が待ち構えてるかもちゃんと教えて気を楽にします。
彼女の声も相まって非常に穏やかな空気が漂ってました。
続く2パート24分間は親しい女性に看取られるシチュ。
Track02は捨て子だったところを拾われ育てられた冒険者志望の女の子
Track03は侵略してきた異星人と一緒に戦ったクールな子と最期の時間を過ごします。
「え…嘘 あっ い、いやぁぁぁ!」
「ほら だから 起き上がって早く よくできたなって言ってくださいよ」
前者は家族同然の関係だったため最もストレートに感情を出します。
彼が死にそうなことに驚き、悲しみ、受け入れられずに心細そうな表情を見せます。
それでも何とかしようと頑張る姿に涙ぐむ人もいるんじゃないでしょうか。
大事にされてることが強く実感できて胸のあたりが熱くなります。
「君がいたおかげで あの時のボクは 辛い訓練を乗り越えることができた」
それに対して後者は淡々とした様子でぽつりぽつりと語ります。
訓練生時代に出会い色んな場面で励まされてきたことを感謝し
さらにこれまで自分の胸に秘めてきた思いを余すことなく伝えて彼の気持ちに応えます。
普段が少年っぽいキャラだからこそ、女性らしいことを言われた時は一層心に響きます。
実はこのパートは割と複雑な背景がありまして
それらを知ればなぜ彼女がここまで冷静でいられるかがわかるようになってます。
彼女にも彼の気持ちがわかるからこそ、ひとつひとつの言葉に重みを感じました。
最後のTrack04は逆に最も明るいお話(約14分)。
人生に嫌気がさしてた主人公が偶然ロリ吸血鬼と出会い
それから1年の時を経てようやく彼女の生贄になります。
彼の体が至って健康なことや、自分から彼女に血を吸われることを懇願した事情があるため
前の3パートとは随分違うカラッとした雰囲気になってます。
彼女も彼を苦しめないよう2種類の薬を与える思いやりを見せます。
「こういう死を迎えられるのもひとつの幸せなのかなぁ」と考えさせられるものがありました。
ちなみに本作品の吸血鬼は血を吸うだけでなく肉を食べる設定もあるのでご注意ください。
このパートでやるのは会話だけで、それらを実際にするシーンは完全に省略されてます。
このように、主人公が死ぬ結末を固定したうえで色んなことをする珍しいサービスが繰り広げられてます。
斬新な切り口の作品
4人の女性は間もなく死ぬ、もしくはこれから死にゆく男性に安らぎを与えようと
自分たちを取り巻く事情を説明しながら最大限の思いやりを示します。
そしてある者は泣き、ある者は思いをはっきり伝えて幸福感を与えます。
「看取られ」に特化したサービスをする非常に珍しい設定
パートごとに異なるキャラと背景を用意し幅広く働きかける展開
心のケアに力を入れたセリフの数々。
暗く重くなりがちなシチュをできるだけ明るく軽く描いてます。
全年齢向けはこのところ新作の数が目に見えて増えてますが
それでもこういうタイプの作品は初めて聴きました。
主人公が死ぬ時点で癒しに繋げるのが難しくなるからでしょう。
ですが本作品はその難題をきちんと解決してます。
「あなたは またその足で 新しい道を歩いていける」
死を終わりではなく変化や始まりに位置づけてるのが大きいです。
生きてる者にとって死後の世界がどうなってるかはわかりません。
だからこそプラスにもマイナスにも捉えることができます。
また彼らがこれまでやってきたことを称賛して価値ある生を送れたことも示します。
「まったくの無駄だった」より「あなたと会えて幸せだった」と言われたほうが当然嬉しいわけで
そういう死の中にあるポジティブな要素を細かく拾ってお話にしてます。
やってる事はシンプルですけど、セリフの表現や内容に光るものを感じました。
扱いが難しい素材を上手に料理してる優れた癒し系作品です。
CV:月花うさぎさん
総時間 52:50
オススメ度
■■■■■■■■■□ 9点
体験版はこちらにあります
追記
2019年9月17日まで20%OFFの691円で販売されてます。